遺伝子治療│特定非営利活動法人 標準医療情報センター

遺伝子治療とは

ヒトのゲノムが2003年解読され、疾患の原因となる遺伝子の詳細な情報が明らかになりました。
その遺伝子治療が現実化しています。

遺伝子治療は、異常な遺伝子を持ち機構不全になっている細胞の欠陥を修復・修正することで病気を治す手法です。現在3種の方法があります。

① 遺伝子補充法
欠損・変異している遺伝子と同じ遺伝子を体細胞に外部から導入し補充する方法
② 遺伝子修復法
一部変異している遺伝子配列(塩基配列)に対して短かなDNAやRNAなどを外部から導入することで修復して正常な遺伝子配列にする方法
③ 遺伝子制御法
疾患の原因となるたんぱく質を翻訳に働くmRNAを阻害する方法で、標準配列に相補的な1本鎖のDNA・RNAなどで阻害します。

遺伝子治療を行うには、疾患部位などの標的とする細胞に治療用の遺伝子を送り導入する必要があります。
このためには遺伝子を送るための「ベクター」(運搬車・運び屋)が必要で、ベクターを点滴、注射、吸入などにより患部組織に注入するか、患者自身の血球などを採取して体外でベクターを導入してから患者の体内に戻す方法があります(図1)。

[図1]厚生労働省 遺伝子治療臨床研究に関する指針の見直しに関する専門 委員会資料
疾病の治療を目的として遺伝子又は遺伝子を導入した細胞を人の体内に投与すること
「遺伝子治療臨床研究に関する指針(文科省、厚労省)
  ⇒ 正常の遺伝子を導入して、遺伝子異常を修復する(狭義の遺伝子治療)
  ⇒ 遺伝子を導入して行う治療(広義の遺伝子治療)

遺伝子治療

遺伝子ベクター

「遺伝子ベクター」(運搬車・運搬人)としてはウイルスを用いる方法と非ウイルスを用いる方法があります。
ウイルスベクターは、その感染機構を利用して治療遺伝子を細胞に導入しますが、ウイルスが増殖するためのウイルスゲノム遺伝子を欠損させることで細胞内のウイルスが増殖しない工夫がしてあります(図2)。

[図2]引用:図解でわかるがん遺伝子治療(JGT発行)

主なベクターの種類

がんに対する遺伝子治療

目的とした遺伝子を細胞の中に入れることによってがん細胞を抑え込む治療のことで、「働かなくなってしまった遺伝子」や「働かないで欲しい遺伝子が働いてしまった」遺伝子を修復・補充します。
細胞のがん化は3段階を経て細胞が無限に増殖を開始します。このアクセルともいえる無限増殖に対するがん抑制遺伝子というブレーキが損傷してがんが増殖し続けます。
がん遺伝子治療では多くの研究がなされていますが、主に次の遺伝子を用いています。

  • ① 無限増殖を止める   - - → CDC6shRNA
  • ② がん抑制遺伝子を修復 - - → P16
  • ③            - - → PTEN
  • ④            - - → P53
  • ⑤            - - → TRAIL

これを「ベクター」に組込んで(ゲノム編集)います(図3)。

[図3]引用:図解でわかるがん遺伝子治療(JGT発行)

遺伝子治療

作用する仕組み

がん細胞においては、『増殖せよ』との命令を促進させるCDC6タンパクが高度(全範囲、多量)に発現していることが確認されています。
CDC6が高度に発現していると抑がん制遺伝子のP16が不活化します。
P16が不活化すると、細胞周期において細胞分裂の増殖シグナルを活性化し、E2FタンパクがRb癌抑制遺伝子産生タンパクの抑制から離れ癌細胞増殖の暴走を促します。
また、P16INK4aの不活化によって、AKT、CyclinAなど因子がMDM2タンパクをリン酸化して細胞核内のP53癌抑制遺伝子産生タンパクを核外に輸送し分解します。
P53遺伝子産生タンパク質欠失によって、異常細胞の修復機能を失いアポトーシス(細胞の自滅)を誘導する機能を失う為に、がん化していく細胞を阻止していくことができなくなります。
がんの無限増殖の因子であるCDC6タンパクをRNA干渉によってこれをノックダウンする成分のCDC6shRNAをがん細胞内のmRNAに干渉することで、細胞分裂の命令因子CDC6の発現を阻害します。

また、がん細胞の85%~90%は、テロメラーゼ酵素が活性化していることが確認されています。
がん細胞にのみRNA干渉を起こさせるためにhTERT逆転写テロメラーゼ酵素をプロモーターとして使用します。このために正常細胞においてはCDC6shRNAは機能しません。
脱リン酸化の触媒であるPTENがん抑制遺伝子産生タンパクとP16がん抑制遺伝子産生タンパクを、hTERTをプロモーターにしてがん細胞にのみ導入し、MDM2の脱リン酸化によりP53遺伝子を安定化させます。
PRBの脱リン酸化でがん抑制遺伝子の(P53・Rb)を活性化させます。

P16がん抑制遺伝子産生タンパクを導入することで、E2Fタンパクの暴走の引き金となるPRBのリン酸化の因子のCDK4/6・CyclinDの複合体形成を阻害します。
このように複合的なタンパクで、がんの無限増殖を停止させる成分を含む抗がん機能を有するものです。

このようなことから、がん細胞にこの遺伝子を入れます。点滴、CTやエコーガイド下注射、カテーテルや内視鏡を介しての注射などで体内に導入しますが、このアプローチには原発巣部位、治療の状況や遺伝子の損傷程度によって異なります。

(2019.5.6公開)

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