統合失調症
データ提供:医療情報サイトForHealth
監修:放送大学教育学部
精神医学
仙波 純一

【どんな病気】

 統合失調症は代表的な精神病です。精神病とは何かというのは、実は説明するのはかなりむずかしいのですが、とりあえず幻覚とか妄想などのように普通の人では通常体験することのないこころの症状を示すものと考えてよいでしょう。脳炎などの身体の病気によって意識が曇ったり、依存性の薬物などを長期に服用したりしたときにも、幻覚や妄想などが出現することがありますが、この場合は統合失調症とは診断しません。  統合失調症が精神科医療で最も重要な疾患であるのは、この病気になると、多かれ少なかれ、その人の人格や社会での活躍が損なわれるからです。といっても、早期に発見して早期に治療し、その後もしっかりした治療を続ければ、社会の中で有意義な生活ができるようになります。

 統合失調症は決してまれな病気ではありません。むしろ、ありふれた病気といってよいでしょう。例えば100人の子供が産まれるとすると、一生のうち0.7人くらいがこの病気になると推定されています。この率には地域や人種での差もないようです。男女差もありません。だいたい10代の終わりから30歳くらいまでに発病します。児童期や中年以降で発病するのはごくまれです。したがって、統合失調症は早期の発見が大切です。

 統合失調症の原因や病態については、現在盛んに研究が続けられています。脳のある部位で、神経の情報伝達に携わるドーパミンという物質が過剰に活動しているのだろうという説が有力です。親の育て方や生活上のストレスが病気の原因であると誤解され、自分を責めているご両親がおられます。実際は、育て方が悪くて統合失調症を発病することもありませんし、大きなストレスがかかるとどのような人でも発症する可能性があるというのでもありません。また、関係がひずんだ家族内で発症するというのも、現在では否定されていますが、感情表現のあからさまな家族内では、再発率が高いようです。
 現在では、統合失調症を発症する人は、もともと脳に発病しやすい傾向を体質として持ち、そのうえで心が成長していくときのいろいろなストレスが発症の引き金になるという説が有力です。このような発症の仕組みも21世紀になれば解明されると期待されています。



【どんな症状】

 病気の初期には自分の病的で奇妙な体験をまわりの人に積極的に話すことはありませんから、まわりからみると、不活発になった、身なりがだらしなくなった、表情が乏しくなったなどの漠然とした行動の変化しか気づかれません。まわりの人は、妙だとは思いながらも、失恋したからだとか仕事に失敗したからだなどと、勝手に解釈してしまって、このような変化を見逃してしまうことが多いものです。

 ある程度病気が進行してくると、とっぴで理解しがたい行動などがみられるようになります。このような行動の裏には、統合失調症による妄想や幻覚などが隠されているのです。幻覚は多くの場合幻聴です。本人の頭の中に直接語りかけてきたり、自分のことについてまわりが話し合っている声が聞こえたりします。もちろんそのような声は実際には存在しないのです。テレパシーなどという言葉で表現する人もいます。初期には本人にとっても奇異な体験ですから、進んで幻聴について語ることはないでしょう。幻聴の内容は、自分にとっていやなこと、秘密にしていることなどが多いようです。自分しか知らないことが幻聴で聞こえてくるという体験もあります。

 一方、妄想は、専門的にいうと「訂正できない判断の誤り」といいます。「自分は誰かにねらわれている」「誰かが自分の悪口を言っている」というくらいですと、ひがみっぽい人ならそう考えることもあるのではないかと思われるかもしれません。しかし、そうでない理由をいちいち説明すれば、わかってくれるようなときは、妄想とはいいません。妄想はもっと頑固なものです。妄想の内容も、幻聴と同じように、自分にとっては不気味なものやいやなものがほとんどです。「誰かから被害を受けている」という被害妄想や、「電車の中で知らない人が鼻をすするのは、僕に対する当てつけだ」というような関係妄想がよくみられます。しばしば、「自分の考えや行動があやつられている」とか「自分の考えが声となって聞こえてくる」というような、常識ではまず考えられないような内容のものもあります。このような幻覚や妄想が述べられると、周囲の家族などはそんなことはあり得ないなどと、理論的に説得しようとしますが、このような説得はまず無意味です。かえって、患者さんは誰にも理解されないのだと孤立してしまいます。むやみに否定せず、本人がつらいことを理解しながら、精神科を受診させるというのがよいでしょう。

 このような幻聴や妄想などのほかに、行動が次第に閉じこもりがちになってきます。活発さが失われ、口数も少なくなり、ずっと自室に閉じこもっていたり、ぼんやりと一日何もせず過ごしていたりすることが多くなります。急に性格が変わってきたとまわりがとらえることもあります。これも統合失調症の一面の症状です。実際、統合失調症の一種では、このような閉じこもりなどの症状が主で、幻覚や妄想がほとんどみられないものもあります。このようなときは、両親でもなかなか病気だと気づかず、たんに怠け者になったとか内向的になってしまったなどと解釈されてしまいます。



【どんな診断・検査】

 診断はおもにこれらの症状から統合失調症に特徴的なものを探し出すことによります。これは医者と患者さんとの会話を通して行われるということが、目に見える身体所見や検査結果などから診断する内科などと異なるところです。もちろん、さまざまな体の病気の症状の一部として、心の異常が現れることがあるので、これらを除外することも行います。そのために、一般的な身体症状のチェックや、CTやMRIなどの脳の画像診断も行うことがあります。統合失調症ではこれらの検査では大きな異常は見られないのが原則です。また、いろいろな心理テストをおこなって診断の助けにすることもあります。診察のときには、できるだけ本人以外の家族が付き添うことをお勧めします。患者さんはすべてのことを話すわけではありませんし、行動などの異常は周囲の人のほうが気づきやすいでしょう。



【どんな治療法】

 統合失調症では抗精神病薬という薬物が有効です。(抗精神病薬をさしてメジャートランキライザーという古いいい方もあります。)これを量の多少はありますが、長期に服用してもらう必要があります。病気の急性期をすぎたあとに、一部の患者さんでは精神的な後遺症(不活発、引きこもりがちなど)を残すことがあります。また、一度この病気を発症すると、ささいな精神的なストレスに対しても弱くなってしまいます。

 薬を飲むだけでなく、症状からくる周囲とのまさつを少なくしたり、症状がぶり返したりするのを予防するためにも、医者との精神療法あるいはカウンセリングが必要です。

 したがって、薬物と精神療法の両方があって初めて治療となります。どちらかだけというのは不十分です。一般に、精神療法だけで統合失調症を治療することは難しく、精神科以外の施設での治療は勧められません。
 抗精神病薬には、眠くなる、体がだるくなるなどの副作用がみられることもあります。この副作用は薬の投与量にもよりますし、患者さんの個人差も大きいようです。副作用があればこれに対処する方法がありますから、一方的に服薬をやめないようにするのが賢明です。最近都市部では、医院を開業している精神科医が増えつつあります。病気の初期に相談したり、外来治療を継続したりするにはこのような精神科クリニックが向いているかもしれません。

 病気の症状が重く、日常生活を行うのに障害が大きいときや、自分を傷つけたりしそうなときには、入院治療が必要になります。統合失調症の場合は、本人が自分の症状を客観的に理解できず、入院を承諾しない場合もあります。このようなときには、保護義務者(配偶者や親、または家庭裁判所で選任された人)の同意によって、本人の意志には反しますが、入院させることもできます。この手続きは精神保健福祉法という法律のもとに行われることになります。

 入院治療は症状にもよりますが、急性期の症状が収まるまで数ヶ月くらい必要なこともあります。退院したあとは、定期的に外来治療を継続することが必要です。抗精神病薬の服薬を長期に続ける方が、再発が少ないことが知られています。現在のところ、統合失調症の患者さんの4割くらいは自立して生活が可能な状態で、約3割が家族などの支えのもとに社会で生活しています。
 残念ながら、残りの患者さんでは、病状が不安定で入院と退院を繰り返さなければならない人もいます。さらにその一部では病気が不幸にも慢性化して、自立して生活を営めなくなり、病院に長期に入院することが必要になることもあります。しかし、仕事をしたり、人と上手につきあっていくなどの社会的な機能が減弱してしまった場合は、リハビリテーションでこれらの能力の減退を補う訓練をしたりすることも、現在よく行われています。このような治療を受けながらも、社会の中で生きている統合失調症の患者さんもたくさんいます。 統合失調症と聞くと何をするかわからない危険な人というイメージを持たれる人がいるかもしれません。しかし、実際は統合失調症の患者さんが罪を犯す率は、決して高くはありません。
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