睡眠障害 治療法ガイドライン 監修:宇部フロンティア大学
山田 通夫
 睡眠障害とは、一般に不眠症と同義に考えられることが多いが、過眠のほか、睡眠時随伴型(悪夢、夜警症、夢中遊行症)も睡眠障害に含まれる。すなわち睡眠の量と質が問題となる。
 睡眠時間については、個人差があり、また季節により若干異なり、線を引くことは難しい。日本人の疫学調査によると、5〜8時間が86.3%でもっとも多く、平均6.6時間である。この睡眠時間は年齢により変化する。2歳までは一日の半分以上寝ているが、10歳になると、8〜10時間、成人では6.5〜7.5時間であり、60歳以降は短くなり、70歳以降では6時間程度となる。
 春から夏にかけては、睡眠時間が短く、秋から冬では睡眠時間は長くなる。
 また、文化、社会のあり様によっても睡眠時間は変化してくる。太陽と共に暮らした昔の生活から見ても、現代人は誰もが「不眠症」気味といえよう。
 睡眠は主観的なところがあり、よく眠れたという人の割合は、6〜7時間睡眠の人の40.0%でもっとも多く、ついで7〜8時間の31.6%である。逆に睡眠不足という人の半数は5〜6時間睡眠であり、6〜7時間睡眠の1/3が睡眠不足と訴える。
 以上より日本人成人では6〜7時間の睡眠が平均的といえる。



【何故人は眠るのか?】

 生体を維持するために脳が睡眠を引き起こしていると考えられている。睡眠により脳のオーバーヒートを防止し、身体の疲労を回復している。
 眠りにつくとすぐに脳のための深い眠り(ノンレム睡眠)が認められ、約90分後に身体のための眠り(レム睡眠)が出現する。起床までにこれを繰り返す。レム睡眠は全睡眠の20〜25%で、残りはノンレム睡眠である。ノンレム睡眠はその深さにより4段階に分類される。第1段階は電車で眠って乗り越さない程度の深さ、隣席の乗客へもたれ掛けるようになると第2段階で乗り越す程度である。第3、4段階は熟睡している状態で、少々の音では目覚めなくなる。レム睡眠の時は夢をみる。脳の中に蓄積されている情報が呼び出されるがそれを記憶する機能が十分に働かないため、夢はその内容を十分に思い出すことが出来ない。
 深いノンレム睡眠時には脳下垂体より成長ホルモンが分泌される。「寝る子は育つ」は科学的な事実である。そのほか、プロラクチンやコルチゾールなどの分泌も睡眠と関係している。
 睡眠に関係するものとして、体内時計がある。1日約25時間の周期を持っている。朝、光線をあびることにより、1日24時間のリズムに同調する。生物時計には松果体ホルモン(メラトニン)が関係している。

 乳幼児では、睡眠覚醒リズムが十分でなく、夜泣きをすることがある。子どもの慢性睡眠障害は心身への影響があると考えられている。
 高齢者では、体内時計の同調機能が減弱し、運動量も少なくなり、そのため必要とする睡眠量が減少するため、高齢者の約30%に睡眠障害を認める(成人では約20%)。高齢者では一般に睡眠が浅くなり、途中覚醒が多くみられ、朝早く目が覚めるようになる。
 高齢者では身体疾患による睡眠障害が見られる。(高血圧、糖尿病、パーキンソン病、心疾患、慢性閉塞性肺疾患などのほか、腰痛や神経痛などによるものなどが増加する)。高齢者ではうつ病になりやすく、睡眠障害を来たし易い。
 睡眠中に筋弛緩のため、気道が狭窄され、呼吸停止が起こり、夜間不眠の原因となる(睡眠時無呼吸症候群)。65歳以上の25%に見られる。
 睡眠の質の障害(レム睡眠行動障害、ナルコレプシーなど)は専門医による診断と治療が必要となる。



【睡眠障害の診断】

*不眠の診断フローチャート >>

 神経症性の不眠を訴えるものは、わが国では成人の21.4%とされる。小児期や青年期にはまれである。20〜30歳代で始まり、中年以降、次第に増加し、40〜50歳代でピークを示す。女性に多い傾向がある。
(1)入眠障害
寝つきが悪い。不眠の中で最も多いタイプ。
(2)中途覚醒
寝ついた後、翌朝までに何度も目が覚める。
高齢者では生理的にもこの傾向がある。
(3)早期覚醒
通常の起床時間より2時間以上前に覚醒する。高齢者になるとこの傾向が見られる。
(4)熟眠障害
睡眠時間にしては十分に休んでいるのに、熟眠したという感覚が得られない。睡眠状態の検査による睡眠の内容にとくに問題が無いにもかかわらず、一晩中よく休めなかったと訴える。

 患者は、日中の集中力低下、ふらつき、頭重感などを不眠の所為であると認知している。また、このような患者の多くは何とか眠ろうと過剰な反応を示しており、その緊張のためかえって睡眠が取れなくなっている。自宅の寝室では緊張して休めず、TVを見ながら、読書中などに比較的よく休める。

●不規則な睡眠習慣
 不規則な就寝・起床時間や長すぎる日中の昼寝など、入眠時のコーヒー、茶の摂取、さらに多量の飲酒、日中の少ない運動量などは、睡眠の量・質を悪化させる。
 うつ病、躁病、統合失調症、神経症、認知症などで不眠をきたすことが多い。



【治療】

 睡眠についての教育指導精神療法認知行動療法などの非薬物療法・薬物療法を行う。
  • 不眠についての誤解が多く、不眠により死んでしまうなどという過度の不安を取り除き、誤解を正す。また、睡眠について個人差のあることを理解してもらう。
  • 床につくとかえって目がさえたり、就寝時間になるとイライラしたりするのは、条件不眠であり、眠くなったときのみ寝床に入り、そうでなければ寝室をでて、別の部屋に行くようにする(刺激制御法)。
  • 起床時間を一定とし、(5時間を下限とする)、軽度の断眠効果により熟眠感が得られる(睡眠制御法)。
  • 不眠患者では交感神経系が緊張しているので、末梢の筋肉を弛緩させて、筋緊張をとり睡眠へ導こうと試みる。
  • その他、自律神経訓練法やバイオフィードバック法などが用いられる。
  • 高照度光療法(2,000〜2,500ルックス以上の照度を1日数10分から数時間、照射する)は生体リズムの位相を変化させる。 概日リズム睡眠障害(ジェット機による時差症候群など)に有効。


― 不眠症の分類とその治療 ―
 一過性不眠(持続:数時間)
急性のストレス(不安、痛み、外科手術前、時差ボケなど)
持続は数日間のことが多く、睡眠薬なしでも問題ない。薬物を用いる必要がある場合、入眠困難に対し、超短時間作用型を用いる。数日間の服用で症状は軽減できる。


 短期不眠(持続:1〜3週間)
仕事や家庭生活あるいは重大な病気などによる比較的長期間のストレスによる。
入眠困難に対しては超短期時間作用型または短期時間作用型薬剤を用いる。睡眠が改善されれば服薬をやめる。


 長期不眠(持続:1ヶ月以上)
性格要因がおもに関係する神経症性不眠、精神疾患のほか身体障害の症状としての不眠、薬物によるもの(アルコールのほか不眠を来たす薬物)、高齢者の不眠、概日リズム睡眠障害などがここに含まれる。

○神経症性不眠
神経症性不眠では入眠困難を訴えるものが多い。これに対しては超短時間作用型や短時間作用型の睡眠薬を用いる。中途覚醒や早期覚醒を伴うものでは中間作用型や長時間作用型の睡眠薬を用いる。睡眠に対するこだわりが強い場合には、抗不安薬を日中に投与して不安焦燥感を軽減するようにし、中間作用型や長時間作用型の睡眠薬を用いる。
○精神疾患に伴う不眠
気分障害(うつ病)や統合失調症(精神分裂病)に伴う不眠には、抗うつ薬や抗精神病薬の中でも催眠作用のあるものを用いることが多い。
気分障害の強い不眠には、ベンゾジアゼピン系薬剤では不十分であり、ミアンセリン(テトラミド®)10〜60mg、トラゾドン(レスリン®)50〜150mgなどを就寝前に投与する。気分障害での持続性不眠は自殺の予測因子であるので、十分注意する。
○不安障害
全般性不安障害では夜間不安が強くなり、入眠障害を訴えることが多い。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)では、夜間に覚醒して、強い不安症状を生じる。睡眠薬としては、中・長期間型のフルニトラゼパム(ロヒプノール®)1〜2mgやクアゼパム(ドラール®)10〜15mgなどを考える。これにより効果が不十分な場合はベンゾジアゼピン系の増量は依存形成をきたす可能性を考慮して、睡眠作用のある抗精神薬のリスペリドン(リスパダール®)1〜2mgの投与にする。クロナゼパム(リボトリール®)0.5〜2mgはパニック障害にも有効である。
○アルコールによる不眠
アルコールは睡眠導入効果はあるが、睡眠後半逆に睡眠が浅くなり、利尿作用のため中途覚醒、早期覚醒の原因となる。アルコール離脱(退薬症候)治療には、交差耐性のあるベンゾジアゼピン系薬剤を対症的に随時投与する方が投与量も少なく期間も短く有効である。
カフェインには覚醒作用があるため、入眠障害や、利尿作用のため中途覚醒の原因となりうる(コーヒー、紅茶、緑茶、ココア、チョコレート、清涼飲料など)。
○ニコチンによる不眠
ニコチンは吸入直後にリラックス作用があるが、その後、覚醒作用が数時間持続する。そのため夜間のタバコは睡眠障害の原因となる。禁煙用のニコチンガム、ニコチンパッチも同様である。
○高齢者の不眠
高齢者では浅いノンレム睡眠(段階1、2)が増加し、深いノンレム睡眠(段階3、4)が減少する。また、レム睡眠も減少している。
高齢者では、睡眠が浅くなり、中断しやすい。早寝早起きとなるのは、上述の終夜睡眠ポリグラフ検査の結果のとおりである。
高齢者では、睡眠等の体内蓄積が起こりやすく、睡眠薬に対する感受性が亢進している。そのため、作用時間が延長しやすく、翌日への持ち越し効果や健忘、脱力などの副作用が出やすい。

高齢者では、代謝経路が単純で代謝されやすい、ロルメタゼパム(エバミール®)や筋弛緩作用の少ないω1選択性睡眠薬としてゾルピデム(マイスリー®)やゾピクロン(アモバン®)を考慮する。
○薬物による不眠
*睡眠障害をもたらす主な薬物 >>



― 睡眠薬の副作用 ―
(1)持ち越し効果
作用時間の長いものは、翌日の眠気、ふらつき、脱力、頭痛、倦怠感などの症状を来す。作用時間の短いものにするか、減量をはかる。
(2)記憶障害
前向性健忘を来すことがある。翌朝覚醒してからの出来事を覚えていない。催眠作用の強い、超短時間型のものを多く使用すると起こりやすい。アルコール併用時はとくに注意する。
(3)早朝覚醒
超短時間型や短時間作用型の睡眠薬では、早朝に作用が切れて早朝覚醒を来すことがある。この場合、作用時間の少し長いものに変更する。
(4)半跳性不眠
長期連用後、突然服用を中断すると、強い不眠を来すことがある。脳障害のある患者では不安・焦燥、振戦、発汗やまれにせん妄、けいれんなどの退薬症状を来すことがある。睡眠薬の離脱には、漸減法を行うか、作用時間の長い睡眠薬に置き換えた上で漸減法を行う。
(5)筋弛緩作用
作用時間の長い睡眠薬では出現しやすい。ふらつきや転倒の原因となるため、高齢者では骨折に注意する。
(6)奇異反応
睡眠薬副作用により、かえって不安・緊張が高まり、興奮や攻撃性が亢進し、錯乱状態になることがある。超短時間作用型の睡眠薬とアルコールとの併用時に多い。


― 睡眠薬の相互作用 ―

 安全性の高いベンゾジアゼピン系睡眠薬もアルコールとの併用によって作用も副作用も増強される(併用禁忌)。さらに奇異反応や記憶障害を起こしやすい。
 ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、抗真菌薬、マクロライド系抗生剤、カルシウム拮抗薬、抗ウイルス薬、シメチジン(タガメット®)などとの併用により相乗され、作用が増強されるのでなるべく避ける。
 抗結核薬のリフアンビシン(リファジン®)や抗てんかん薬との併用により効果が減少する。



【睡眠障害対処12の指針】
(厚生労働省 精神・神経疾患研究委託費
 睡眠障害の診断・治療ガイドライン作成とその実証的研究班、平成13年度研究報告所より)
1. 睡眠時間は人それぞれ、日中の眠気で困らなければ十分
睡眠の長い人、短い人、季節でも変化、8時間にこだわらない
歳をとると必要な睡眠時間は短くなる
2. 刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法
就床前4時間のカフェイン摂取、就床前1時間の喫煙は避ける
軽い読書、音楽、ぬるめの入浴、香り、筋弛緩トレーニング
3. 眠たくなってから床に就く、就床時刻にこだわりすぎない
眠ろうとする意気込みが頭をさえさせ寝つきを悪くする
4. 同じ時刻に毎日起床
早寝早起きでなく、早起きが早寝に通じる
日曜に遅くまで床で過ごすと、月曜の朝がつらくなる
5. 光の利用でよい睡眠
目が覚めたら日光を取り入れ、体内時計をスイッチオン
夜は明るすぎない照明を
6. 規則正しい3度の食事、規則的な運動週間
朝食は心と体の目覚めに重要、夜食はごく軽く
運動習慣は熟睡を促進
7. 昼寝をするなら、15時前の20〜30分
長い昼寝はかえってぼんやりのもと
夕方以降の昼寝は夜の睡眠に悪影響
8. 眠りが浅いときは、むしろ積極的に遅寝・早起きに
寝床で長く過ごしすぎると熟睡感が減る
9. 睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のぴくつき・むずむず感は要注意
背景に睡眠の病気、専門治療が必要
10. 十分眠っても日中の眠気が強いときは専門医に
長時間眠っても日中の眠気で仕事・学業に支障がある場合は専門医に相談
車の運転に注意
11. 睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと
睡眠薬代わりの寝酒は、深い睡眠を減らし、夜中に目覚める原因となる
12. 睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全
一定時刻に服用し就床
アルコールとの併用をしない


《文献》
内山 真:睡眠障害の反応と治療ガイドライン(株)じほう、2002
上島国利、三村 將、中込和幸、平島奈津子:EBM精神疾患の治療2006-2007、中外医薬社、2006
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